出発、頭丸めて

昼下がりの中央線快速東京行きの座席に腰かけて,僕は深くゆっくりと大きな溜め息をついた.人はなぜ溜め息をつくのだろう?
暗澹たる思考は脳から染み出して喉を熱く苛みながら伝い,肺の底に泥のように重たい瘴気を充満させていく.新鮮な空気を送り込んで,それを無理やり追い出さなければいけない.少なくとも僕は今そうしなければならなかった.
その溜め息は,どこか遠くの鬱蒼とした森にある,誰も知らない深くて暗くてジメジメした井戸から漏れ出てくる風のように聞こえた.僕は,うつ病が脳の一部に栄養が行き渡らない肉体的な疾患に過ぎないという学説と溜め息との間にあるかもしれない関連性についてぼんやりと考えた.

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